BRAND STORY vol.01 DESIGN
PHILOSOPHY

デザイン哲学編

デザイン、機能、品質、適性価格の四拍子が揃ったプロダクツを届けるために

01
プロダクトデザインの考え方

“まずはしっかり機能させること
それが大前提です”

プロダクトをデザインするうえで最も大事にしているのは、見た目の新しさや格好良さではなく、まずはテントとしてしっかり機能させること。それが大前提にあります。

機能性というのは、使い勝手はもちろんですが、設営するところから使う人に寄り添い、どうサポートしてあげられるか、という点も重要な要素だと思っています。だから、どれだけ格好良くても設営が難しかったり、どう頑張ってもきれいに張れないテントは、プロダクトとしてパーフェクトではない。

人の目を引くデザインというのは、意外と簡単にできるものです。けれども、実際に使っていくうえで不備があったり、違和感を抱くようでは、プロダクトデザインとしてはちょっと違うと思います。

テントは自然のなかで使うものなので、風に対する強度や、設営しやすさといったさまざまな機能が必要で、それらを考えたときに、やはり、デザイン上の制約というものがあります。

また、基本的には金属フレームと布地で構成されているわけで、できることは限られてきます。

そうしたセオリーを忠実に守りながら、その制約の範囲内で新しいものを生み出したいと常々考えてきました。

そのための絶対条件として、テントの構造的理解を深めておく必要があります。それがないと、なにか突拍子もないデザインで、機能も使い勝手も悪い、という製品になりかねません。

逆に、きちんとした考え方のベースがあれば、ルールやセオリーという限られた条件のなかで、今までと違うアプローチや新しいアイデアも生まれます。

02
機能美とデザイン性

“コンセプトは自然景観のなかに
美しく佇むデザイン”

「機能美」という言葉がありますよね。でも、機能を突き詰めたところに、美しいデザインが生まれるかといえばそんなことはなくて、やはり、機能を追求するだけでは、機能のかたまりにしかなりません。

では、どうしたらいいかといえば、やはり、見た目の格好良さや美しさといったデザイン要素が欠かせません。格好いい、美しいと思ってもらえなければ、人の目にも留まらず、検討さえしてもらえないかもしれませんしね。

では、格好いいデザインとはなにかといえば、これが非常に曖昧で、人によって好みも美観も違ってきます。そのなかで、自分がコンセプトにしたのは、自然景観のなかに美しく佇むデザインです。

日本の自然景観に違和感なく溶け込むカタチ。それを表現するとしたら、ヒントは日本の建築様式にありました。

たとえば、ゆるやかなカーブを描く屋根の曲線美。日本人のだれもが共感できあの凜とした美しさには、書道の「とめ」「はね」「はらい」といった筆づかいの要素が凝縮されています。

この日本特有の美しさを、自分のデザイン要素のなかに取り入れようと。それはすごく意識してやりました。

わかりやすいのは「モーニンググローリーTC」のシルエットです。軽くカーブさせた屋根が延びてきて、最後はすっと内側に切れ込んで、軒下を作り出す。あれはまさに、日本建築で受け継がれてきた「払って止める」という線の描き方です。

03
品質とコストのバランス

“クオリティを高めてコストも抑える それがプロの仕事”

機能を追加していくと、コストはアップします。フレームを1本増やせば、そのぶん材料費も工程数も増えるから、当然、コストも高くなる。逆にポールの本数や生地の使用量を絞れば、それだけ安くできる。当たり前ですね。

そこで、クオリティと価格、そのどちらを優先するのかという話になります。でも、どちらかではなくその両方、つまり、クオリティを高めて、コストも抑える。それをバランスさせるのがプロの仕事だと考えます。

そのため、自分はデザインを引き算で考えます。意図と目的を明確にして、そこに向けてどんどん要素を絞り込む。できるだけシンプルかつ、限られた素材とパターンニングで、どれだけ魅力的なプロダクトを作り出せるかどうか。

それは言葉にするほど簡単でもないのですが、自分のなかでは、あえて次元の高いところへチャレンジしているつもりです。

小杉 敬
SABBATICAL プロダクトデザイナー
小杉 敬

1972年、新潟県生まれ。 大手アウトドアメーカーでの20年以上にわたる企画開発経験を経て、2018年、ゼインアーツを創業し、一躍業界中の注目を集める。 2018年からエイアンドエフのオリジナルブランド「SABBATICAL」にプロダクトデザイナーとして参画。 グッドデザイン賞受賞歴多数。 自身、クライマーでありバックカントリースキーヤー


  • TEXT:CHIKARA TERAKURA
  • PHOTO:SHOTA KIKUCHI